
不動産投資用物件の収益性説明義務とは?注意点や問い合わせ時のポイントも紹介
不動産投資用物件の購入を検討する際、「この物件は本当に収益を生むのか」と疑問に感じたことはありませんか。不動産会社には、投資用物件の収益性について適切に説明する法的な義務がありますが、その範囲や具体的な内容は意外と知られていません。この記事では、収益性説明の義務と実務で押さえておきたいポイント、法令や裁判例に基づいた注意点まで、分かりやすく解説します。不安な点の解消や後悔のない判断につなげるヒントを得てください。
投資用物件の収益性説明に求められる法的義務の基礎
投資用物件を購入する際、買主がより正確な判断を下せるようにするため、不動産業者には法律に基づく説明義務が課されています。まず、宅地建物取引業法により、重要事項説明として建物や土地の法令制限などが掲示されることが義務付けられています。ただし、この法律上の説明項目には広告収入など収益性に直結する具体的事例は含まれず、説明の限界も存在します。
そこで、民法上の信義則が媒介業者や売主に対して、より広い範囲での説明義務を課す役割を果たします。信義則とは、誠実に相手の信頼を裏切らないように行動する義務であり、相手が知り得ない情報で投資判断に重要な事項があれば、自ら進んで提供すべきとされています。
加えて、収益性の中心である利回り(表面利回りや実質利回り)は、投資判断において非常に重要な指標です。表面利回りは家賃収入を物件価格で割っておおまかな収益性を示すものであり、広告等でよく用いられる指標です。一方、実質利回り(ネット利回り)は諸経費を差し引いた実際に手元に残る率を示し、より現実的な収益性評価に欠かせません。
これらの利回りは、投資用物件の説明において中核的要素であり、不動産業者にとっては法的な説明義務と投資判断の要件が交わる重要な場面であると言えます。
| 義務の種類 | 内容 | 限界・特徴 |
|---|---|---|
| 宅地建物取引業法による説明 | 法令による制限など契約前に必要な事項 | 収益性に直結する具体的制限は対象外 |
| 民法・信義則に基づく説明義務 | 相手が知り得ない重要情報の積極的提供 | 法令外でも投資判断に影響する内容は対象 |
| 収益性指標の説明 | 表面利回り・実質利回りなど収益性評価 | 表面利回りでは過大評価の危険あり |
収益性説明で注目すべき法令上の制限と裁判例の示唆
投資用物件の収益性を説明する際、単に利回りの数値を示すだけでなく、その根拠となる要素に法令等の制限がないかを調査し、買主に説明する義務があります。例えば、屋上広告収入を収益に含めて利回りを算出した場合、その広告が条例により掲出できないとすれば、本来得られるはずの収益が見込めず、説明義務違反として損害賠償の対象とされる可能性があります。これは、投資判断の基礎となる収益性について、信義則上も慎重な説明が求められることを示しています。
実際に、東京地方裁判所令和4年3月29日の判決では、売主業者が提示した想定利回りに含まれていた屋上広告収入について、条例によって掲出自体が制限される地域であったにもかかわらず、調査や説明を行わなかったことが信義則違反の不法行為とされました。この判決では、表面利回りの基盤となる収益要素に法令上の制約がある場合、たとえ宅地建物取引業法における「重要事項説明」の対象外とされるものであっても、民事上の説明義務が課されると認められました。また、損害額として約二千万円が認定され、買主側の過失として四割の過失相殺も適用されました。
さらに、媒介業者(仲介業者)にも利回りに関する説明の裏付け責任が求められる実務上の視点もあります。もし媒介業者が提示した収益性の根拠に疑義が生じた場合、買主に代わってその内容を確認・説明する義務があります。このような責任を怠ると、契約の履行に支障を来たし、媒介報酬の減額や請求そのものが信義則に反するものとして制限される可能性があります。
以下は、法令上の制限調査と各主体の責任についてまとめた表です。
| 主体 | 調査・説明義務の対象 | 責任の内容 |
|---|---|---|
| 売主業者 | 利回りの基礎となる収益要素(例:広告収入)の法令制限 | 信義則上の説明義務、不法行為責任 |
| 媒介業者 | 提示する収益性根拠の精度・裏付け | 善良なる管理者としての注意義務、媒介報酬請求の制限 |
| 買主 | 提示情報の妥当性に関する確認 | 過失相殺の対象となる可能性 |
実務で説明すべき収益性の要素と調査範囲
投資用物件を案内する際には、収益性を正確に理解していただくため、表面利回りと実質利回りを適切に使い分けてご説明することがたいへん重要です。表面利回りは「年間家賃収入 ÷ 購入価格 × 100」で算出され、広く広告などで用いられています。しかし、維持管理費や税金、修繕費などを考慮しておらず、あくまで目安にとどまります 。
一方、実質利回りは「(年間収入 - 年間諸経費) ÷(購入価格 + 購入時の諸経費) × 100」で計算され、実際の手取りに近い収益性を示す指標です 。このように、表面利回りと実質利回りの違いを明確に説明することで、お客さまの理解と信頼を得られます。
以下の表は、利回りの種類と説明すべき要素をまとめたものです。
| 利回りの種類 | 計算式 | 説明すべきポイント |
|---|---|---|
| 表面利回り | 年間家賃収入 ÷ 購入価格 ×100 | 広告で多く用いられるが経費を除くため過大評価に注意 |
| 想定利回り | 満室を想定した家賃収入 ÷ 購入価格 ×100 | 満室前提の理論値で、実態と異なる可能性 |
| 実質利回り | (年間収入-諸経費) ÷(購入価格+諸経費)×100 | 経費を反映し投資収益をより正確に把握 |
さらに、収益性に影響を及ぼす要素として、以下をご説明することが大切です。
- 空室率:実際の稼働を踏まえた想定収入との差異
- 経費の内訳:固定資産税、管理費、修繕積立金、保険料などランニングコスト
- 購入時の費用:仲介手数料、取得税、登記費用など一時的負担
- 税務面:減価償却や税金による収支への影響
当社では、収益試算にあたり想定収入の根拠をしっかりと確認し、内部で調査・検証を行ってからご提示いたします。その姿勢は、お客さまと安心してご相談いただける信頼の礎となります。
買主に信頼されるための説明プロセスと自社アクション
投資用物件の収益性を巡る説明において、信頼される不動産業者となるためには、丁寧で透明な説明プロセスと自社での責任ある対応が不可欠です。
まず、説明のタイミングと方法が重要です。契約締結前に重要事項説明を行うのは当然ですが、収益性に関する資料や試算の提示は、契約前に事前に行い、買主が納得したうえで契約に進むよう配慮します。たとえば、収益性の計算根拠や前提条件(空室率、経費、広告収入など)を明示することで、説明の合理性と透明性を保ちます。
次に、自社として取り組む具体的な姿勢をご紹介します。
| 取組項目 | 内容 | 期待される効果 |
|---|---|---|
| 収益試算の透明性 | 表面利回りと実質利回り(NOI利回り等)を併記し、各前提条件を明示 | 買主が数字の背景を理解しやすくなる |
| 法令上の制限調査 | 屋外広告に関する条例等、収益に影響する可能性のある法的制限を事前に確認・説明 | 信義則に沿った説明とトラブル防止 |
| フォローアップ対応 | 契約後も収益性に関する質問や再試算の要望に迅速に対応 | 安心感を与え、問い合わせや相談につながりやすくなる |
こうした対応は単なる義務の履行ではなく、お客様に対する信頼の構築そのものです。特に収益性に関する説明義務を丁寧に果たすことは、問い合わせやさらなる相談の動機になります。買主が安心して相談できる業者として認識されれば、自社への問い合わせや相談が自然に増えるでしょう。
以上のように、売買契約前後を通じた誠実な説明プロセスと自社の具体的な対応姿勢こそが、買主からの信頼を得る鍵であり、結果として問い合わせにつながる大切な要素となります。
まとめ
不動産の投資用物件においては、収益性の説明義務が買主の判断を大きく左右します。法令上の重要事項説明はもちろんのこと、契約前の細やかな資料提示や情報提供、想定収入の裏付けなど、誠実な説明が求められます。また、収益性に関するあいまいさを残さず、買主が安心して意思決定できる環境を整えることは信頼構築につながります。自社では今後も、より分かりやすく丁寧なご案内を心がけてまいりますので、お困りの際はご相談ください。
